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新潟地方裁判所 昭和29年(ワ)95号 判決

原告

大沼アイ

被告

遠山武雄

主文

被告は原告に対し金二十万二千七百六十六円及びこれに対する昭和二十九年三月十一日以降完済に至る迄年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告において金六万円の担保を供するときは、原告勝訴の部分に限り、仮りに執行することができる。

事実

(省略)

理由

昭和二十八年十月二十五日午後七時頃原告が新発田市に行商のため、無花果七貫匁、松茸一貫五百匁を箱に入れて背負い、平林駅通りに差掛つたところ、被告が他に通行人のないのを奇貨として原告を強姦しようと挑みかかり、その抵抗を受けるや、原告の首を締めて道路脇の江川に投げつけ、言うことを聞かなければ締め殺すと脅迫したこと、被告の右暴行の際原告の背負つていた箱の重みと被告の締扼のため傷害を受けたことは当事者間に争いがない。而して同傷害が頭蓋内出血による後遺症及び左眼外旋神経不全麻痺であつたことは証人伊藤栄次郎の証言、同証言によりその成立を認めうる甲第十一号証、証人池田正敏の証言及び同証言によりその成立を認めうる甲第十号証を綜合して認めることができ、次に原告が右傷害のため、昭和二十八年十月二十五日以降同三十年三月三十一日迄の間医師の訴外伊藤栄次郎の治療を受け、その費用として金十万二千六百五十円の請求を受けていることは原告本人の訊問の結果及びこれによりその成立を認めうる甲第十二号証によつて明らかであり、また、成立に争いのない甲第九号証及び原告本人訊問の結果によれば、右同様に昭和二十八年十一月十日以降延べ二十八日間医師の訴外岡村深雪の治療を受けて、金二千百十六円の治療費を支払つていることが認められる。更に証人小野一郎の証言及び原告本人訊問の結果を綜合すれば、原告は村上高等学校を二年で中途退学し、父が病弱のため、母と共に農耕に従事する傍ら、衣類、魚、罐詰等の行商をしていたが、その収入は少くとも一ケ月平均一万二千円の純益があつたものと認められ、而も、昭和二十八年十月二十六日以降四ケ月間は本件傷害のため全く右の行商に従事できなかつたことが認められるから、原告はこのため金四万八千円の得べかりし利益を喪つたというべきであり、更に、原告が被告の前記暴行、傷害のため、精神的損害を蒙つたことは明白であるが、その慰藉料の額は、被告は牛乳販売業を営み、その実父は住家、納屋、牛乳処理場等合計九十六坪の建物及び二百四十三坪の宅地を所有する外、田一町五畝二十八歩、畑三反七畝十六歩を自作しているとの当事者間に争いのない事実と前記争いのない事実、前記認定の事実及び後記認定の事実等諸般の事情を斟酌考慮すれば、金五万円が相当であると考える。

なお、証人遠山健蔵の証言によれば、訴外佐藤正司が被告の父遠山八重郎の依頼を受けて、被告の本件暴行につき謝罪のため原告方に行き、見舞金として一万円を送つた事実は認められるけれども、被告主張の本件暴行事件が昭和二十八年十一月頃原被告間に示談が成立し、円満解決を見たとの事実はこれを認めるに足る証拠がない。

従つて、前記認定の原告が負担し、又は支払つた治療費金十万二千六百五十円及び金二千百十六円、行商により得べかりし利益の喪失金四万八千円及び慰藉料金五万円はいずれも被告の故意過失による本件不法行為のために原告の蒙つた損害として、被告にこれが賠償の義務あることは明白であるから、被告に対し、右金額の合計金二十万二千七百六十六円及びこれに対する本件訴状送達の翌日であることの記録上明白な昭和二十九年三月十一日以降完済に至る迄法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において原告の本訴請求を正当として認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第九十二条を適用し、仮執行の宣言については同法第百九十六条第一項を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 真船孝允)

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